WRC2021/05/24

エヴァンスが今季初優勝、勝田が殊勲の4位

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 2021年世界ラリー選手権(WRC)第4戦のラリー・デ・ポルトガルは、5月23日に最終日を終え、トヨタGAZOOレーシングWRTのエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)が今季初優勝した。

 ラリー最終日は、かつて何度もポルトガルのステージで使用されたマラオ・エリアのフェルゲイラス(9.18km)から始まり、モンティム(8.75km)、そしてポルトガルを象徴する伝説のステージ、ファフェ(11.18km)を走る。当初この3カ所のステージをループする予定だったが、2回目のモンティムがキャンセルとなり、2回目のループではフェルゲイラスとファフェの2ステージとなり、計5ステージ49.47kmで争われることとなった。最終ステージのファフェがパワーステージとなっている。

 日曜日の朝、スタート時点での気温は10度と肌寒いくらいだ。走行順は、土曜日のスーパーSS前の順位のリバース。先頭ランナーは、金曜日のクラッシュのダメージを修理するために2度目のリタイアとなったティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)。以下3分間隔で、同じく再出走となったカッレ・ロヴァンペッラ(トヨタ・ヤリスWRC)とオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)が続き、アドリアン・フールモー(フォード・フィエスタWRC)、ガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)、勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)、セバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)、ダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)、エヴァンスの順でスタートした。

 各車のタイヤ選択は、エヴァンス、ソルド、ロヴァンペラ、勝田がソフト4本+ハード2本、オジエはソフト4本+ハード1本で最後のループへ向かったが、ヌーヴィルはソフト5本、タナクはソフト4本のみでボーナスポイントを狙いに行く。

 SS16のフェルゲイラスは、1998年以来の採用となるポルトガルのクラシックステージだ。サンタ・キテリアの丘をアップダウンする全長9.18kmの行程で、序盤の3分の1区間には短いターマック路面がある。基本的には流れるような高速ステージだが、キャンバーのついたコーナーが続き、道幅も狭いためにわずかなミスで高い代償を払うことになる。

 ベストタイムを奪ったのはエヴェンス。「かなりプッシュした。ステージはトリッキーで、グリップも想像していたより低く、固い路面だった。この結果には満足している」と語る。10.7秒差の2位につけていたソルドは、最終日の追い上げが期待されたが、9.6秒遅れの4番手タイムで、エヴァンスとの差は20.3秒に広がってしまう。タイヤを温存しながらタイムをコントロールしながら走ったオジエはソルドに次ぐ5番手タイム。3位争いで健闘する勝田は「トリッキーでスリッパリーなステージだった。良いドライビングではなかった」と13番手タイムに留まり、オジエとの差は11.4秒となった。

 SS17モンティムでもエヴァンスがベストタイムを記録して逃げを打つ。ソルドも懸命にアタックするが両者の差は21.7秒とジリジリと広がっていく。

 首位争いを展開するエヴァンスとソルド、5位のポジションを争うフールモーとグリーンスミス以外のドライバーは、パワーステージを見越しての戦略を実行している。SS18、1回目のファフェの走行ではそれぞれの思惑が表面化する。ベストタイムはヌーヴィル。「ハイスピードなレッキだったが、最初の走行ではかなりの路面掃除が必要だった。2回目の方が状態は良くなるだろう」と語り、セカンドベストのタナクも「次に走る時楽しめるといいね。やれることはやっていくしかない」と感触を確かめる。エヴァンスは「ここまでは順調。今朝の一発目はなかなか興味深いステージになったが、うまく機能しているから十分満足だよ」と、ペースを保って3番手タイム。「最初のステージでのタイムには納得していない。2つ目のステージはプッシュしようとしたが、クルマのリヤがかなり動き回っていた。グリップがなくて走りづらい。自分にはどうすることもできない。そんなもんだ」と語るソルドとのタイム差は22秒となった。

 3位のポジションをキープしているオジエは「タイヤを温存している。パワーステージですべてが分かるだろう。可能な限り多くのポイントを獲ることが目標だ」とコメント。勝田は「安全に徹した。パワーステージではどこまでできるか分からないが、今後のための改善できるところを探っていた」と冷静にペースをコントロールしている。

 SS19、2回目のフェルゲイラスではエヴァンスがベストタイムを取り返した。最終ステージを前に、エヴァンスとソルドの差は26.2秒となり、3位にはオジエ、4位に勝田とほぼ順位は固定してきた。5位にはSS18で逆転を果たしたグリースミスが浮上し、5.2秒差でフールモーが続く。ヌーヴィルとタナクは、パワーステージに向けてスロー走行でタイヤを温存する作戦を取った。

 パワーステージとなるSS20ファフェは、ポルトガルの象徴的なステージだ。過去WRCの名演として記憶されている最終2km地点にある2つの有名なセクションでは、例年数万人規模の観客がラリーカーの激しいアクションを堪能する。直角左コーナーに向かってグラベルの坂を下り、短いターマック区間を通ってヘアピンカーブで再びグラベルに戻っていく。フィニッシュの直線には胃の痛くなるようなペドラ・センタダのジャンプが控えている。昨年のエストニア以来、初めて公式に観客を入れた今回のポルトガルでは、ファフェもやや入場数を規制することになったが、やっと歓声がステージに帰ってきたことをドライバーたちも歓迎することになった。

 ワークス勢の中で、最初にこのステージに挑んだのはヌーヴィル。「これ以上はムリだと思う。マシンが少し動き過ぎたかもしれないが、リズムをキープしようとした。オーバードライブだったかもしれないが、ムダなく走り切れたと思う」と、1回目の走行よりも10秒以上速いタイムを記録する。だがロバンペッラを挟んでスタートしたタナクはスペアを搭載しないギャンブルを成功させ、ヌーヴィルよりも1.6秒速いスーパータイムでファフェを駆け抜けた。「何が違ったのかは分からないが、昨日までのペースが戻ってよかった」と波乱のラリーを振り返った。
 
 前戦に続き大健闘を見せた勝田は「間違いなく進歩したと思う。今日を除いてはラリーを楽しめたが、それもゲームのうちだ。次のラリーでは改善したいので、サルディニアがどうなるか見てみよう。チームはいつも同様、一生懸命働いている」と今回のパフォーマンスに自信を覗かせる。ポディウムには一歩届かなかったものの、ファフェでは気迫のこもった走りを見せ、値千金の自己最上位の4位でフィニッシュした。

 オジエも手堅く3番手タイムを叩き出した。「いつも最大限の走りをしている。エルフィンがどうなるか次第だが、サルディニアでロードオープナーになるのは好ましくない。僕らにとって決して理想的な週末ではなかったけれど、ポイント的には問題ない」とラリーを振り返った。

 ソルドは完走ペースに切り替えて7番手タイムでゴール。「2位で戻ってこられてハッピーだ。エルフィンを捕まえられなかったのが残念だったが、彼は速かった。マニュファクチュアラー選手権のポイントに貢献できただけでなく、ボルハ(・ロサーダ)との初めてのイベントで表彰台を獲得できたことがとてもうれしい」と語った。

 優勝はエヴァンス。「良い気分だね。今週末は最速のクルーではなかったかもしれないが、ペースはとても良く、トラブルを避け、今日はダニを寄せ付けないようにした。良いタイミングでこのような結果を得られてうれしい」と勝利の感触を確かめた。

 ドライバー選手権ではオジエが79ポイントを獲得し、エヴァンスが77ポイントで続く。マニュファクチュアラー選手権では、トヨタGAZOOレーシングWRTが183ポイントと、ヒュンダイ・シェル・モビスWRTを37ポイント上回って首位を走っている。

 次戦のラリー・イタリア・サルディニアは2週間後、6月3日にスタートする予定だ。