WRC2021/01/25

オジエが8度目のモンテ勝利を達成、トヨタが1-2

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 2021年世界ラリー選手権(WRC)開幕戦のラリー・モンテカルロは、24日に最終日を迎え、トヨタGAZOOレーシングWRTのセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)が優勝を飾り、モンテカルロの通算勝利で8勝という新しいレコードを打ち立てた。また、2位にはエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)が続き、トヨタは2017年のWRC復帰以来初となるモンテ勝利を1-2ポディウムで飾ることになった。

 昨年10月にフランス南東部を襲った豪雨によって土砂崩れによって道路が寸断され、モンテカルロ最終日のハイライトともいえるチュリニ峠のステージは今年、ルートから外れることになったため、最終日はモナコからいつものように北東ではなく北西に進路をむけて、ピュジュ-テニエ〜ラ・ペンヌ(12.93km)、ブライアンソネ〜アントルヴォー(14.31km)という2つの新しいステージをノーサービスで2回走る4SS/54.48kmとなる。

 この日の早朝、ステージにむかう前にモナコ・ハーバーにはタイヤ・フィッティング・ゾーンが設けられており、ここで選択したタイヤのまま4ステージを走り切らなくてはならない。そのため、各ドライバーともにアイスノートクルーやメティオの情報をもとに慎重にタイヤを選ぶことになったが、トヨタ勢が6本ともにスタッド付きスノータイヤを6本選んだのに対して、ヒュンダイ勢はスタッド付きスノー4本とスーパーソフト2本をチョイス、戦略は大きく分かれることになった。各チームともこれまでの3日間で新しいピレリのチョイスには手こずっており、この戦略の違いによってリーダーボードがどう動くか注目されることになった。

 オープニングSSのピュジュ-テニエ〜ラ・ペンヌは、路面はドライのように見えたり、あるいはただのウェットのようにも見えたが、それは間違いであることはすぐにわかることになった。一番手でスタートしたピエール-ルイ・ルーベ(ヒュンダイi20クーペWRC)がいきなりブレーキをミスしてオーバーシュート、スノーバンクに激突することになる。「氷の上をスリックタイヤで走っているような不思議な感覚だった。全くグリップがなかったんだよ!」。

 幸いルーベはラリーを続行できたものの、アイスノートクリーが走行してからおよそ3時間が経過して、朝の急激な冷え込みによってところどころブラックアイスが生まれており、ノートにはない急なグリップの変化がこのあと走行するすべてのドライバーを悩ませることになる。

 この難しいコンディションのなかでベストタイムを奪って最終日をスタートしたのはオジエだ。オジエは「グラベルクルーが通過してからコンディションは大きく変化していたので、僕たちが頼りにできる情報は無かった。トリッキーだった」と語り、コンディションの変化を嘆くことになったが、13秒差の2位でスタートしたエヴァンスは8秒遅れの3番手タイム、「グリップを判断することは非常に難しく、不可能だった」と苦い表情だ。二人の差は一気に21秒へと広がってしまう。

 いっぽう、3位争いはこの日のスタート前にもたらされたスチュワードの決定によってさらにホットな状況となっていた。前日を終えて3位のカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)と4位のティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)は7秒差だったが、二人は金曜日のSS4/7シャランソン〜ギュミアンヌ・ステージでコースを大きく逸脱したインカットがあったとしてロヴァンペラには5秒のペナルティを2回の計10秒、ヌーヴィルには5秒のペナルティがそれぞれ科されており、ロヴァンペラのリードはわずか2秒と削られてこのステージを迎えることになった。

 先に走行したヌーヴィルは「いいステージだったけど、そこにはリスクがなかったから、これでいいのかどうかはわからない。予想以上に滑りやすく、湿っているはずの場所でもアイスになってしまった」と、ロヴァンペラに届いたかどうか自信をもてないように語ったが、そのときすでに後続のロヴァンペラはドラマに見舞われていた。

 ロヴァンペラはステージ序盤のパンクのために56.2秒をロスしてフィニッシュ、「パンクした。ステージの序盤に、なにかがあったんだ。ノートにはなかったのでそれが露出した岩だったのかなにか分からないが・・・見えなかった。大きなヒットではなかったのに悔しいよ」と訴えるように語ったが、ヌーヴィルに3位を譲り、ここで早くもポディウム圏内からは53.5秒と大きく離された4位へと後退してしまった。

 続くSS13ブライアンソーネ〜アントルヴォーは連続する上りの高速ターンがコル・ドゥ・ブイ(1196m)まで続き、その後は急傾斜のダウンヒルをハイスピードで一気に下っていくが、レッキ時にここはぶ厚いアイスに覆われており、スタート前から週末でもっとも困難が予想されてきたステージだ。前半の数kmはスノーバンクによってタイトになったスノーステージが続くが、後半の下り坂のセクションは融雪剤によってアイスが数日のうちにほとんど融けており、ところどころのコーナーにはアイスパッチが覆い、ブラックアイスが潜んでいる状態だった。

 このようなトリッキーなコンディションのなか、多くのドライバーが相次いでスピンを喫するなか、ヌーヴィルがこの週末2度目となるベストタイムを奪う。「マシンのリズムに少しずつ慣れてきた。ここではインカットをすべて回避するようにした、パンクは避けたいからね。このままラリーをフィニッシュできることを期待している」。

 2番手タイムのエヴァンスは、ラリーリーダーのオジエとの差を1.3秒縮めて、まだまだ優勝争いの望みを捨ててないことをアピールしたが、オジエは19.7秒をリードして残り2つのステージを残すばかりとなっただけに、すっかりリラックスした様子で「ここではリスクは一切負っていなかった」と語ることになった。

 続くSS15はピュジュ-テニエ〜ラ・ペンヌの2回目の走行。朝の日射しによって1回目の走行で見られたブラックアイスは融けてきたが、日陰になるとグリップが落ちてまだまだアイスが残るコーナーもある難しいコンディションのなか、すでにクルーズモードとなったかに見えたオジエがエヴァンスに5.7秒差をつけるベストタイム、最終のパワーステージを残してチームメイトとの差を28.1秒に広げている。「正直なところ、あまりプッシュしていなかった。クルマの調子もいいので、ドライビングを楽しんでいるだけだよ」と、8度目の勝利の瞬間を心弾ませて待っているかのように笑みをみせた。

 オジエは迎えた最終ステージのブライアンソーネ〜アントルヴォーでも連続してベストタイムを叩き出してパワーステージウィンに勝利、パーフェクトウィンでシーズンをスタートすることになった。キャリア通算50勝目の勝利を、モンテカルロでの8度目というメモリアルウィンで達成した彼は、ステージエンドで引退を一年延ばしてよかったと感極まったようにコメントした。

「週末の終わり方としては悪くないよね!クルマは本当に素晴らしかった。今にも目に涙が浮かびそうだよ、もう一年続けることを決断したのは本当良かった。チームは素晴らしい、彼ら全員に本当に感謝している。新しいボスに勝利を捧げるよ!」

 2位のエヴァンスは、より困難なステージでリスクを負って攻めることができなかったことを後悔しているように週末をふり返ったが、タイトル争う資格が十分にあることを認識した週末になっただろう。「良かったとは思うが、100%のフィーリングには届かなかった。いいステージもあったが、自分が望むように一貫して力を発揮することはできなかった。ここではセブのほうが良かった。僕たちはリスクのレベルとでもいうポイントに少し足りていなかったのかもしれない」

 3位にはトヨタ勢の一角を切り崩したヌーヴィル。初のコンビでのモンテ挑戦というプレッシャーのなかで見事に期待に応えた新しいコドライバーのマルタイン・ウィダーゲを称賛することになった。「ラリーを最後まで走ることができて本当に嬉しい。難しい挑戦になることは分かっていたし、どうなっていくのか予想がつかなかった。マルタインは初めてのWRカーでの挑戦となったが本当にいい仕事をした。

 ロヴァンペラは、金曜日には一時、チームメイトを抑える速さをみせてラリーをリードすることになったが、コースオフと不運なパンクで表彰台を逃して4位に終わることになったが、パワーステージでの2番手タイムで成長をアピールしてエンディングを迎えている。「ドライビングに関しては基本的にいい週末だったが、多くの不運があっていい結果に結びつけることができなかった。自分の走りには満足してもいいと思う」

 ダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)にとっては初日のデファレンシャルトラブルでの遅れがすべてとなった。チームメイトのオイット・タナクが土曜日のダブルパンクでリタイアとなったあとだけに、チームの選手権のためにも重要な最終日となったが、この日の朝、長いWRCキャリアの中で経験したことのないようなステージコンディションを「異次元のレベル」と表現したが、どうにかドラマを逃れて5位を獲得した。

 トヨタ・ジュニアドライバーの勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)は、SS13では雪のなかにアイスが潜んでいるコーナーでスピンしてガードレールに吸い込まれそうになるなど危ういシーンにも遭遇したが、そのあとはステディな走りを続けて、昨年のモンテでの7位を上回る自己ベストの6位での入賞を果たしている。「最も重要なのはここの極めてトリッキーなコンディションで多くの経験を積めたこと。スピードも上がってきているし、自信も持てるようになってきた」と彼はステージエンドでうれしそうにコメントしている。

 開幕戦を終えて、ドライバーズ選手権ではパーフェクトな勝利を飾ったオジエが30ポイントを獲得、2位のエヴァンスはパワーステージでも3ポイントを加えて21ポイント、ヌーヴィルが17ポイント、ロヴァンペラが16ポイントで続いている。

 また、マニュファクチャラー選手権は今季からパワーステージでのポイントが加算されることになったため、Wポディウムに加えてパワーステージでも1-2を占めたトヨタが52ポイントのフルポイントを獲得、30ポイントのヒュンダイに22ポイント差をつけることになった。

 次戦はキャンセルとなったラリー・スウェーデンに代わって、2月26〜28日にフィンランドで初開催されるアークティック・ラリー・フィンランドとなる。北極圏に近いラップランドの白銀のステージがWRCチャレンジャーたちを待っている。