WRC2019/08/26

タナクがドイツで今季5勝目、トヨタが1-2-3達成

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 2019年世界ラリー選手権(WRC)第10戦ラリー・ドイッチュランドは8月25日、全競技を終えて、トヨタGAZOOレーシングのオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)、クリス・ミーク(トヨタ・ヤリスWRC)、ヤリーマティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)が1-2-3フィニッシュを果たし、ポディウムを独占することとなった。また、自身初のWRカーでのWRC参戦となった勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)は、いくつかのドライビングミスはあったものの、非凡なスピードと堅実な走りを披露して10位で完走し、初のドライバーズポイントを獲得している。

 ラリー・ドイッチュランドの最終日は、再びモーゼル河畔のブドウ畑を縫うように張り巡らされた狭い農道と林の中を駆け抜けるワインディングコースが舞台となる。28.06kmの距離を持つグラーフシャフトと、2016年以来の使用となるドーンタール(14.97km)のふたつのステージをノーサービスで2回ループする設定だ。パワーステージは2回目のドーンタールに掛けられる。

 出走順は、1.テーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)、2.勝田、3.ガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)、4.セバスチャン・オジエ(シトロエンC3WRC)、5.エサペッカ・ラッピ(シトロエンC3WRC)、6.アンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイi20クーペWRC)、7.ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)、8.ダニ・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)、9.ラトバラ、10.ミーク、11.タナクのオーダーとなる。全ドライバーがミシュランのハード5本をチョイスしてステージへと向かった。

 SS16のグラーフシャフトは、スタートから延々と続くヘアピンコーナーをつないで一気に350m高度を上げ、迷路のようなブドウ畑を抜けて、超高速の幹線道路を繋いでフィニッシュするチャレンジングなステージだ。

 ここでベストタイムを奪ったのはヌーヴィルだ。前日のパンクでポジションを落としてしまった彼だが、「前の方で何かが起こるのを待っている」と、まだ集中力を切らせてはいない。

 一方、首位を走るタナクは、「クリーンな走りを心がけた」とペースをセーブ。ヌーヴィルよりも14.1秒遅いタイムだが、完全にラリーをコントロールしている。2位のミークも「リズムを保っていい感触だった」とサードベストを記録。3位のラトバラも、セカンドベストを刻んだソルドが16.1秒差にタイムを縮めてきているが、「ダニは攻めていたし、僕は手堅く走っただけだ。慌てることはないよ」と余裕の表情だ。

 続くSS17、1回目のドーンタールでは、ラトバラがベストタイムを奪った。ここでもセカンドベストを刻んだソルドよりも0.4秒速い。「僕のドライビングは慎重過ぎると思ったが、タイムを取り返せてラッキーだ」と語った。ソルドは「ヘアピンカーブでミスをして少しタイムを失った。僕はこのステージが好きだし、トリッキーでスリッパリーなところもあったが、マシンも良い動きをしていた」と2回目の走行に期待を掛ける。

 このステージでもリスクを負わずステディに走ったタナクは26.9秒のアドバンテージを持って残り2つのステージを競うことになった。「どうなるかな。パワーステージのポイントを少しでも取れるといいのだけれど」と、語る。3番手タイムを記録したヌーヴィルも「非常にトリッキーで路面もとても汚れていた。少し慎重に走らなければいけない場所もあった。パワーステージに向けてノートに変更を加えることができる」とコメントした。

 SS18、2回目の走行となるグラーフシャフトでは、1回目の走行と同じくヌーヴィル、ソルドのヒュンダイコンビが速い。だが1-2-3フォーメーションを組んでラリーを牽引する3台のヤリスWRCのポジションは揺るがない。最終SS、パワーステージとなる2回目のドーンタールを前に、首位のタナクは僚友ミークに25.1秒の差をつけ、その15.6秒差に3位のラトバラ。追いかける4位ソルドとラトバラの差は9.8秒。5位には15.2秒差でヌーヴィルがつける。

 ソルドのタイム差が10秒を切ったもののラトバラは、「フィーリングはまずまずだ。ここは僕にとっては決して良いステージではないし、今後に向けて少しでも改善することが必要だから、そのためにもノートを修正していかなくてはならない」と落ち着いている。またミークも「後はパワーステージを残すだけ。オイットはタイトルに向けてしっかりとポイントを獲得するだろう。ここからホームまで盛り上げていくよ」と話した。首位のタナクは「何て言えばいいのかな。トラブルもなくクリーンな朝だった。他の誰かをコントロールすることはできないからね。僕たちは自分たちにできるベストを尽くすしかない」と掌にある勝利の感触を確かめながら戦略を練っている。

 その後方、6位争いは熾烈だ。5.8秒差で最終日をスタートした6位ミケルセンと7位ラッピだったが、SS7でミケルセンがコースオフして順位を入れ替える。だが差は4.6秒。続くSS17でミケルセンはラッピのタイムを6.3秒上回り、逆転。さらにSS18、今度はラッピがミケルセンより2.8秒速いタイムで再逆転を果たす。最終SSを前にふたりの差は1.8秒となった。

 8位にはオジエ。このSS18のスタートから3km地点でワイドになりコースオフ。C3の右リヤ部分が壁に接触し、タイムロスを喫している。9位にグリーンスミス。「トリッキーな週末だったけれど、だんだん良くなってきている」と、ペースノートを補正しながら何とかポジションをキープしている。勝田は10位。最初のグラーフシャフトのヘアピンコーナーでエンジンをストールさせるなどのミスもあったが、その後はしっかりとペースを戻した。

 注目の最終ステージ、ドーンタール。土曜日にパンクでタイムを失いポジションを落としたヌーヴィルが気を吐きベストタイムを奪い、パワーステージのボーナス5ポイントを獲得した。「正直に言って必死に頑張った。これが十分だったかどうかわからないが、大きなリスクを冒さずにできる最大限の走りをした。僕たちは週末の間ずっとオイットのスピードに対抗できていた。勝利も可能だったかもしれないが、バウムホルダーでパンクしてしまった。オイットは非常に良い走りで、勝利にふさわしい。僕たちは(5位に)満足だよ」とコメントした。

 2014年にはこのドーンタールで首位を走っていたラトバラがリタイアするという劇的な幕切れがあったが、今回、1-2-3体制を固めたトヨタ勢は盤石の走りでラリーを締めくくった。とはいえ、タナクはSS17からブレーキにトラブルを抱えていたという。「複雑な心境だ。前のステージからトラブルを抱え始めたので、プッシュできなかったんだ。それについてはハッピーではないが、僕たちは無事に勝利できた。チームは何度か1-2-3を逃してきたので、ついに達成できてうれしいよ」と今季5勝目の感触を語った。

 2位にはミーク。パワーステージで2ポイントを得る。「僕たちは今年、表彰台を5回か6回争うことができていたはずだが、パンクやトラブル、僕自身のミスなどで阻まれて、そこまで到達しなかった」としたが、今回は本来のスピードを披露して値千金の2位を得た。

「ここでのプレッシャーは強かった」と振り返ったのはラトバラ。3番手タイムで3ポイントのパワーステージポイントを獲得。これまでの経緯を振り返るように「ミスなしで堅実なパフォーマンスができたことが、最も重要なことだ」と3位という結果を噛み締めた。

 金曜日のギヤボックスのトラブルから素晴らしい挽回を見せたソルド。「不運なことに、メカニカル・トラブルには手の施しようもなかった。だが良い面を見る必要がある。僕たちは今、ターマックで強いマシンを持っている。結果は残念だが、チーム全体のパフォーマンスには満足している」と、荒れたターマック戦で成果を強調した。ソルドは4位でステージをフィニッシュしたが、チームメイトのヌーヴィルの選手権のためにポジションを譲り、5位に下がった。

「非常に難しい週末だった。適切なスピードを見つけて自信を持つことができなかった。少し前進したが、現時点ではまだ十分ではない」というラッピはミケルセンに競り勝ったが、ドライバー選手権ポイントを少しでも上乗せしたいオジエのためにチームオーダーにしたがって8位にポジションを下げた。そのためミケルセンは6位。「オジエより上の順位を保つために、調度良いペースでドライブをした」と語る。

「僕たちが期待していたような週末ではなかったが、誰も僕たちが頑張っていなかったとは言えないだろう」と語ったオジエは7位を得たが、タイトル争いで足踏みが続いている。

 9位はグリーンスミス。トリッキーなコンディションに苦しんだが「素晴らしいラリーで、ここにいられるすべての瞬間を楽しんだ。機会を与えてくれたMスポーツとフォード・パフォーマンスに非常に感謝している。最高だった」とコメントした。

 ヤリスWRCをドライブしての初WRCとなった勝田は10位でゴールした。「とても満足だ。僕たちの目的はラリーをフィニッシュすることと、経験を得ることだけだった。チームのサポートにとても感謝している。今日は僕の母の誕生日なんだ。ハッピーバースデー!」と満面の笑顔を見せた。

 金曜日に電装系のトラブルでリタイアを余儀なくされ、土曜日からリスタートしたスニネンは最終SSでセカンドベストを刻み、4ポイントを獲得。「僕たちはターマックで本当に良いペースを見せることができた。それが僕たちのしたかったことだ」と前向きに捉えている。

 ドライバー選手権ではタナクが独走体制を築き、33ポイント差の2位にヌーヴィルが浮上、オジエは40ポイント差に離された。そしてマニュファクチュアラー選手権でトヨタはヒュンダイに8ポイント差まで迫っている。

 次戦トルコは昨年トヨタが1-2フィニッシュを決めた相性の良いイベント。好調の波に乗りその再現なるか。あるいは快速タナクを止める反撃の狼煙が上がるだろうか。注目の第11戦マルマリス・ラリー・トルコは9月12日にスタートする。