WRC2021/10/16

ヌーヴィルとエヴァンスが0.7秒差の首位争い

(c)Hyundai

(c)Toyota

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 2021年世界ラリー選手権(WRC)第11戦ラリー・デ・エスパーニャは15日にDAY1を迎え、ヒュンダイ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)がリードするものの、エルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)は0.7秒という僅差の2位で続き、選手権を争うチームメイトのセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)に18.7秒差を築いている。

 12年ぶりにオールターマックイベントとして開催されるラリー・デ・エスパーニャの初日は、タラゴーナ西北に向かい、ヴィラプラーナ(20.00km)、ラ・グラナデーヤ(21.80km)、リバ-ローハ(14.21km)の3ステージをサービスを挟んで2回ループする6SS/112.02kmの1日となる。

 スペインの高速ターマックは摩耗が激しいことで知られ、ピレリはこの週末、新しいターマック用ハードコンパウンドタイヤのP Zero RA WRC HAをデビューさせており、全チームのドライバーがハード5本をチョイスして美しい朝焼けのなかサービスを後にしている。

 SS1ヴィラプラーナは勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)のドラマで始まることになった。中間スプリットでもペースが上がらず苦しいスタートとなっていた勝田が右コーナーのタイトになった出口でガードレールにクラッシュ、どうにかステージをゴールしたものの左タイヤは斜めに曲がっておりロードセクションでリタイアとなり、早くも戦線離脱することになった。

 このステージで目が覚めるような衝撃のスピードをみせたのはエヴァンスだ。彼は20kmのこのステージで2番手タイムのヌーヴィルに5.1秒もの差をつけてリードを奪うことになった。オジエは8.1秒遅れの3番手タイムにとどまり、なんと1kmあたり0.41秒もの大差をつけられた計算だ。

「かなりいいフォーリングだね。クルマはとても調子よく動いてくれている。ダウンヒルで数カ所、少し限界ギリギリだったところもあるが、あとはクリーンに走れた」と、エヴァンスは素晴らしいスタートとなったことを素直に喜んだが、ステージエンドではほとんどトップドライバーたちが不満を述べることになった。

 ヌーヴィルも「速く走ろうとしていたが、常にアンダーステアが出てしまっていてうまくクルマをターンさせらなかった。良いラインをキープすることができなかった」と語っている。彼は、2019年にラリー・デ・エスパーニャで優勝を飾り、昨日のシェイクダウンでもエヴァンスと遜色ないタイムを並べていたが、このオープニングSSではしっくりと来てない表情をみせており、エヴァンスに8.1秒差をつけられたオジエも「ほんの少しアンダーステアが出てちょっと慎重になったセクションもあった。目を覚まさないとね」と自身の走りに納得できない様子だった。

 首位から9秒遅れの4番手タイムには2年前にここでワールドチャンピオンを決めたオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)、9.2秒遅れの5番手タイムのダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)が続くオーダーだ。

 続くSS2ラ・グラナデーヤでもエヴァンスの速さは変わらない。ここでもオジエを3.1秒上回るベストタイム。それでも彼は新しいこのステージの2回目の走行ではさらにペースを上げるべく、ステージエンドではコドライバーのスコット・マーチンにペースノートの修正を指示していた。「正直なところ、あまり良くなかった。まったくの新しいステージでステージを通してコミットしきれなかったと思う」

 ここではヌーヴィルもエヴァンスと並んでベストタイム、2人の差は5.1秒と変わらないものの、オジエは3.1秒遅れの3番手タイム、11.2秒のビハインドとなった。ヌーヴィルはまだ不満そうに「自信が持てない。思うようにプッシュできないんだ。リズムはあるが、コーナーの途中でフロントを失ってしまうので、何度かハンドブレーキを使ってクルマを保っていくことが必要だったし、セットアップを見直す必要がある」と語り、けっしてスムースなドライビングではなかったと認めており、こうした無理したドライビングのつけをSS3リバ-ローハで払うことになってしまう。

 ヌーヴィルはオープニング・スプリットまでは最速だったが、ステージがテクニカルでツイスティになるにつれ、タイヤに苦しんでペースダウン、2.8秒遅れの4番手タイムに終わることになった。

 タイムロスを説明できるかと聞かれたヌーヴィルは、「アンダーステアだ。本当にいろいろ頑張ってみたけどどうにもならない。まともにターンもできない」と吐き捨てるようにコメントする。

 エヴァンスは3連続でベストタイムを奪って朝のループを席巻することになったが、「いいリズムで走ることができたね。全体的に走行はスムーズで、うまく機能していたので、最初のループには満足だけど、まだまだ序盤戦だからね。午後になるとコンディションが大きく変わるので、集中してベストを尽くす必要がある。まだ始まったばかりだよ」

 オジエはオープニングSSで遅れたあと「目を覚ますことが必要だ」と語っていたが、それ以降もじわじわと引き離されてしまい、朝のループを12.6秒遅れの3位で終えることにった。「悪いループではなかったが、エルフィンのほうが速かった。彼はとてもいいスタートを切ったので、僕らは午後からそれに対応していかなければならない。ここでは自信を持って最高の速さを発揮する必要があるけど、今朝は少しアンダーステアが出ていたので、完全なモードでは行けなかったんだ」

 ソルドはスピンしたタナクを抜いて4位に浮上し、朝のループではオジエから4.1秒差の4位で続いている。ソルドは、トップグループから遅れないよう「かなりハードにプッシュしてきた」と認めたが、路面に前走者が不要なカットで路面を汚しているため後続のマシンでは不利だと苛立ちをみせていた。

 前戦ラリー・フィンランドのアクシデントで背中を痛めた後、復帰が認められたカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)はソルドから8.4秒遅れの5位で続き、タナクに8秒差をつけている。

 朝のうちは雲が多かったがステージの上には青空が広がっており、気温も24度まで上昇、午後のループも全ドライバーがハードのみをチョイス、多くのドライバーが5本を選択するなか、ソルドとここまで9位につけて絶対完走を目指すオリヴァー・ソルベルグ(ヒュンダイi20クーペWRC)が6本を搭載した。

 午後のループの最初のステージは、朝のループで勝田がクラッシュしたヴィラプラーナの2回目の走行だが、ここは今度はタナクが波乱に見舞われる。

 タナクはこの日の朝、最初のステージでは4位につけていたが、SS2の最初のコーナーでリヤをスライドさせてスピンして6位までポジションを落とし、総合では首位のエヴァンスから33.1秒もの遅れとなっていたが、午後のループではさらに最悪の事態が待っていた。彼はSS4をスタートしてすぐ、カットによって路面にダートがかき出されていたコーナーでスライドしてコースオフ、リタイアとなってしまった。

 ここではヌーヴィルがエヴァンスに0.3秒差をつけるベストタイム、二人の差は7.6秒となった。オジエはここでも3番手タイム、エヴァンスからは15.6秒遅れだ。

 2回目のループでは朝よりあきらかに多くのコーナーで路面に土や小砂利がかきだされており、ダーティーになっている。続くSS5ラ・グラナデーヤでは一番手走行のオジエがマシンをスライドさせてひやりとさせたが、彼の後ろを走るエヴァンスはさらに心臓が凍りつくような瞬間を経験する。彼はスタート直後のダートが出ているコーナーで突然グリップを失ってスライド、左リヤを路肩の縁石にヒットしたあとコントロールを失いかけながらも迫りくるガードレールをどうにか避けることになった。

 ここは朝のループでタナクがスピンしたコーナーだ。エヴァンスはホイール破損によるパンクも懸念されるなか、集中力を失わないようも眼をしっかと見開いてプッシュを続けたが、ここではヌーヴィルが7.9秒も大差をつけるベストタイム、0.3秒差でエヴァンスを抜いて首位に浮上することになった。

 エヴァンスはこの出来事があったためにわずかに慎重になったと認めた。「確かにそうだ。グラベルに引っかかって、マシンが飛び出しそうになってしまったんだ。これはちょっとした衝撃で、当然、他の場所では少し慎重にならざるを得なかった」

 見事な走りを見せて首位に立ったヌーヴィルは、マシンの状態は正しい方向に向かっていると興奮気味に語った。「マシンの状態は良くなっていて、正しい方向に向かっている。路面がかなり汚れているときは、明らかにハンデが少ない。サーキットのように路面をすべて使って走らなければならないときは、やはりバランスに悩まされるよ」

 ヌーヴィルはこの日の最終ステージのSS6リバ-ローハでも好ペースをキープ、エヴァンスに0.4秒差を付けるベストタイムを奪い、0.7秒という瞬きをする暇もないほどのリードだが、首位で初日を終えることになった。「フィーリングは良くなってきているので、明日が楽しみだよ。ツイスティなステージでは、もっと速く走れたはずなのに、ターンインがうまくいかなかった。明日はまた違ったタイプのコースが待っている。もう少しオープンなステージなので、僕たちに合っているはずだ」

 一方、エヴァンスは首位を守れなかったことを悔しがっていたが、チームメイトの8度目のワールドタイトルを阻止するための計画が予定どおりに進んでいることを喜んだ。「前向きに考えなければならない。とくにダーティな路面になった午後のループは最高ではなかったが、まあOKだよ」

 午後ループになって多くのコーナーには砂利がかきだされたため、一番手で走るオジエが望むラインはなく、追い上げるチャンスを失ってしまったようにも見えるが、この日行われた6ステージすべてにおいてチームメイトのタイムを抜くことが出来ず、ペースが上がらない理由は自信が持てないことが大きいと不満そうに語っている。「今日はこのような日だ。僕はマシンに自信を持てず、最大限にプッシュすることができなかった。それほど悪い一日ではなかったが、いつもマシンとの戦いがあり、完璧なリズムを見つけることができなかったよ」

 オジエは、首位のヌーヴィルからは19.4秒差、選手権を争うエヴァンスからは18.7秒という大きな差となっているが、それとともに地元のソルドが5.4秒という僅差の4位につけていることも彼を満足させていない理由だろう。

 ソルドは、他のライバルたちと違ってスペアタイヤを2本積んでいたためにタイムが伸び悩んだが、チームの選手権のためにはノーポイントはもはや許されない状況のなかで、午後の3ステージのうち2ステージでオジエのタイムを上回ってみせた。

「正直なところ、最初のステージではストップしてるオイットを見て少し戸惑ったが、そのあとは大丈夫だった。僕らの戦略は他の選手とは少し違ったが、できるかぎり、がんばったよ。オジエとの差はまだあるが、ラリーは長いので、プッシュし続けるよ」

 新しいピレリのハードタイヤの特性をつかみきれてないロヴァンペラは、ソルドの後方13.2秒差の5位で続いている。

 イベント前のテストがないためMスポーツ・フォード勢にとっては苦しいスタートとなっており、アドリアン・フールモー(フォード・フィエスタWRC)が6位、チームメイトであるガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)が7位で初日を終えている。

 オリヴァー・ソルベルグは、2Cコンペティションのヒュンダイi20クーペWRCで総合9位につけており、ここまではトラブルのないラリーを続けている。負傷したピエール-ルイ・ルーベに代わって2CコンペティションからWRカーにデビューしたニル・ソランス(ヒュンダイi20クーペWRC)は、朝のループでフロントガラスが霧で曇るトラブルに見舞われるまでMスポーツ勢を抑える健闘をみせていたが、ソルベルグから34.9秒遅れの10位で初日を終えている。

 明日の土曜日はタラゴーナ東北エリアに向かい昨年と同じくサヴァヤー・ステージから始まる7SS/117.54kmが行われる。オープニングSSは現地時間8時44分(日本時間15時44分)のスタートだ。