WRC2021/10/18

ヌーヴィル今季2勝目、トヨタ王座決定は持ち越し

(c)Hyundai

(c)Hyundai

(c)Toyota

 2021年世界ラリー選手権(WRC)第11戦ラリー・デ・エスパーニャは、10月17日にフィニッシュし、ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が今季2勝目となる勝利を獲得した。ドライバー選手権とマニュファクチァラー選手権のふたつのタイトル決定は、最終戦に持ち越されることになった。

 ラリー最終日の行程は、ラリー・デ・エスパーニャ伝統のステージのひとつでもあるサンタマリア(9.10km)とリウデカニエス(16.35 km)の2つのステージをノーサービスで2回ループする4SS/50.90kmの一日だ。リウデカニエスの2回目の走行がパワーステージとして設定されている。

 出走順は、前日の順位のリバースで3分間隔のスタート。勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)、アドリアン・フールモー(フォード・フィエスタWRC)、ニル・ソランス(ヒュンダイi20クーペWRC)、オリバー・ソルベルグ(ヒュンダイi20クーペWRC)、ガス・グリースミス(フォード・フィエスタWRC)、カッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)、ダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)、セバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)、エルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)、ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20WRC)のオーダーとなる。最終日に残された距離は50.90kmということもあって、すべてのドライバーがスタート前のサービスでハード5本を選択している。

 首位のヌーヴィルと2位エヴァンスのタイム差は16.4秒。22.3秒差でオジエが続き、1.2秒差でソルドがプッシュするという展開で最終日を迎えることになった。

 朝7時、サービスパークが設けられたポート・アヴェンチュラのあるサロウの気温は13度。日の出は8時過ぎのため、最終日のオープニングステージとなるSS14サンタ・マリーナは暗闇の中で行われることになる。ラリーカーはライトポッドを装着してステージに向かった。

 サンタマリーナ村の手前からスタートするSS14は、ハイスピード区間から始まり、コル・デ・ファチェスのフィニッシュに向けてツイストしながら登っていく9.10km。路面のアスファルトは古くてバンピーなところもあり、岩やバリアーが立ち並んでいるので、ラインを外すと手痛いことになりかねない。暗さに加え、霧も心配されたが、最初に走行した勝田は「慎重に走ったが、それでも結構クリーンなステージだった。そんなに悪くない。霧がヤバそうかなと予想していたが、そこまで悪くなかった」と、トップグループには霧の問題はなかった。

 ベストタイムを奪ったのはオジエをプッシュするソルド。「暗闇の中、ちょっと難しかったよ。確信を持てないコーナーがいくつかあった。今日はセブがどう覚醒するか様子を見て、僕たちは最後まで戦っていくよ」と語る。対するオジエは、「自信が持てなかった。あまりよく見えなくて、少し苦戦した」と、ソルドから1.7秒落ちの4番手タイムに終わり、3位のポジションを譲ることとなった。とはいえ、両者の差は0.5秒に過ぎない。

 首位を走るヌーヴィルは「十分だったかどうか分からない。カットがとても多くて、パンクが心配だ。クリーンな走りができたし、日中の明るい中でならもっと良くなるだろう」と語り、ソルドに続くセカンドベスト。「正直、クルマがところどころ不安定だった、簡単にはいかない。問題はない」と語るエヴァンスとのタイム差を17.1秒に広げた。

 SS15リウデカニエス(16.35km)は、スタートから4.2km地点にある、丘の斜面の詰めかけた巨大な大観衆の前でドライバーたちが360度のドーナツターンを行うコル・デ・ラ・テイヘタのラウンドアバウトでも知られている。ステージの大部分はダウンヒルで、ドゥエサイゲスまでの序盤のパートはツイスティな区間となる。またラリー・ド・エスパーニャのランドマークともなっている鉄橋の下を通過した後は、フラットでハイスピードな道へと転じ、リウデカニエス貯水池に沿って走りながらフィニッシュへと向かう。

 ここではソルドが連続ベストタイムを刻み、オジエとの差を1.6秒に広げた。「これ以上僕にできることはない。終わりの方が少し滑った。クルマは決して悪くないし、まだ終わっていない」とオジエは語るが、最終コーナーでワイドになって縁石にヒット。ホイールを大きく破損してしまった。事前の計画ではこのままノーサービスでリピートステージに向かう予定だったが、アイテナリーの変更によって新たにスケジューリングされたサービスに救われることになった。

 ヌーヴィルのスピードも安定しており、ソルドに続くセカンドベスト。4番手タイムのエヴァンスとの差は20.6秒まで広がった。

 SS16、2回目のサンタ・マリーナのステージでもソルドの勢いは止まらない。オジエに3位を譲ってしまうことになれば、パワーステージの状況次第ではトヨタのマニュファクチャラータイトルが決まってしまう。「ところどころで少しずつロスがあったと思う、でも自分のベストを尽くした。いいステージだったよ。もう少し行けたかなって思うコーナーが2つくらいある」としながらも、1回目の走行よりも3秒速いベストタイム。オジエもセカンドベストで踏ん張ったが、その差は2.3秒に広がった。

 ヌーヴィルは3番手タイム。「クルマの調子が少しは上がってきたと思う、ただ、酷いカットインの跡があまりにも多いので慎重にならざるを得ない。すべてカウントするから(パワーステージでは)思いきりトライしていくよ」というエヴァンスとのタイム差は21.3秒に広がった。「僕たちは特に心配することはない。十分なギャップもあるし、最初からかなり慎重にいったからね。選手権に影響することはないし、パワーステージのポイントを獲るためにプッシュする必要はない」と、2019年に続くスペイン勝利に向けて集中している。

 ドライバー選手権を争うチームメイト同士、オジエとエヴァンスはSS16後のメディアゾーンで自分たちが置かれた立場を次のように語っている。「これ以上僕たちにできることはあまりない。暗闇の中でさらにリスクを冒すこともできたかもしれないが、それについては前にもやりたくないと言った。2回目の走行では限界ギリギリだった。最後に少しスライドしてしまったが、それはハードにプッシュしていたからだ。この位置はあまりタイトル争いに影響しない。ダニが速いことは分かっているから簡単にはいかないだろう」(オジエ)。

「ティエリーのミスがなければ何も起こらないことを、僕たちもすでに分かっていたと思う。もちろん、タイム差を縮めていけるようにするためには良い走りをする必要があるが、現実的にその差は相当にでかいものだと思う。もっと可能性はあったのかもしれないと思うが、いつもそういう部分が余計に悔しい気持ちにさせる。未知の領域に足を踏み入れることと、そのバランスを見つけていくことは常に難しいことなんだ」(エヴァンス)。

 だが、最後までなにがあるかわからないとはこのことだ。なんと首位のヌーヴィルがリグループに入る際にエンジンがかからず、押しがけをしたところリヤから出火したという。詳細についてチームは明らかにしてないが、どうにかヌーヴィルはひやりとさせたトラブルに水を差されることなくリグループをオンタイムで後にして最終ステージへと向かっている。

 そして迎えた最終SSのリウデカニエス。ここまでの順位のリバースで走ることステージはなんとスタート直前になって終盤のセクションに大雨が降り始め、水しぶきがあがるほどのフルウェットとなってしまう。むろんすべてのドライバーはミッドデイサービスでふたたびハードを5本チョイスしており、あとは突然の路面変化に対してどう対処するかに勝負がかかる。

 しばらくすると雨は止み、走行によって路面は乾き始めるなか、マシントラブルが懸念されたヌーヴィルもペースに影響がないことを示す走りでセカンドベストを刻み、2位以下に24.1秒差をつけて、今季3勝目を獲得することになった。パワーステージでのポイントでヒュンダイが持ちこたえたことで、マニュファクチャラーズタイトルも最終ラウンドに持ち越しになった。「ようやくホッとした。厳しい週末だった。とても激しく戦った。クリーンな走りができ、終わり近くまですべてが完璧でした。残念ながら、最終ステージの前にたくさんのストレスがあった。再び。本当にがっかりした。そうでなければ週末は完璧で素敵だっただろう」とヌーヴィルはラリーを振り返った。

 
 2位にはエヴァンス。パワーステージの最大ポイント獲得は逃したが、3番手タイムを記録した。「ある意味では満足しているが、別の意味ではとても悔しい。完璧な週末ではなかった。それでも、手堅い仕事ができたと思う。しかし、当然ここでは(首位を目指して)戦っていた。望んでいたものではなかったが、これでいい」と最終戦でのタイトル獲得に意欲を燃やす

 3位のソルドは最終日の4つのステージすべてでベストタイムを刻み、オジエに付け入る隙を与えなかった。「僕がどれほど嬉しいか、想像もつかないと思うよ。セブは僕たちに思いっきりプレッシャーをかけ、僕としてはいい戦いだった。このマシンで戦えるチャンスをくれたチームに感謝している。うれしいよ」と、ホームでの通算50回目のポディウムを噛み締める。チームメイトのオイット・タナクがリタイアしたあと、ソルドが3位のポディウムとともにパワーステージを制することができなかったら、ヒュンダイはマニュファクチャラー選手権のチャンスをここで失っていただけに、最強の仕事人ぶりをいかんなく発揮することになった。

 オジエは4位。ラリー前、勝利によってタイトルを決めたいと決意を語っていたが、残念ながら彼が思い描いて以上に厳しい週末となってしまった。「チャンピオンシップのためのポイントだ。今回のラリーでは、より高い目標を掲げていたが、いくつかの理由で実現しなかった。だが苦しい週末になったが、チャンピオンシップのために必要なものを手に入れることができた。あとはモンツァがどうなるか見てみよう」

 苦戦しながらもロヴァンペラは5位で完走。6位にグリーンスミス、7位のソルベルグは「とても楽しい週末だった。僕たちは少し前進できたと思う。ステージ序盤は雨が多く降っていたが、最後のほうは乾いてきた。どれだけスリッパリーかわからないので、とにかく完走したかった」と語る。WRカーのデビュー戦で素晴らしい走りを見せたソランスは、「この週末をドライブできて、素晴らしい気分だ。クルマはとてもよく走ってくれたし、自分たちの仕事にとても満足している。ヒュンダイをはじめ、協力してくれたすべての人に感謝している」とデビュー戦を評価した。

 第11戦ラリー・デ・エスパーニャを終えてドライバーズ選手権ではオジエが204ポイントで選手権リーダーをキープ、エヴァンスはかなり挽回したとはいえ17ポイント差の187ポイント。優勝したヌーヴィルは159ポイントとして、選手権2位のチャンスを残している。

 マニュファクチャラー選手権ではぎりぎりヒュンダイがタイトルチャンスを残したとはいえ、474ポイントのトヨタから47ポイントも引き離されており、ライバルに不運が起きるのを待つしかない状況だ。

 2021年のWRCは、コロナ禍の長いトンネルを駆け続け、最終戦を迎えようとしている。ACIラリー・モンツァのスタートは11月19日だ。