WRC2021/07/18

ロヴァンペラがエストニア独走、初勝利に近づく

(c)Toyota

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 2021年世界ラリー選手権(WRC)第7戦ラリー・エストニアは土曜日のレグ2を終え、トヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)が2位のクレイグ・ブリーン(ヒュンダイi20クーペWRC)へ50.7秒もの大差をつけて首位をキープ、20歳での史上最年少WRC優勝という歴史的な瞬間にむけて大きく前進している。

 エストニアの土曜日は、タルトゥ北東部の新しいエリアのステージとなる。ロシアとの国境に位置するペイプシ湖の畔にあるペイプシアーレ(23.53km)をはじめ、ムストヴェー(12.28km)、ラーニツァ(22.76km)、ヴァステムイサ(6.70km)のあとラーディのデイサービスが行われる。午後は朝と同じ4ステージのループをリピートしたあと、スーパーSSタルトゥ(1.64km)で締めくくる9SS/132.18kmというラリー最長の1日となる。

 オープニングステージとなったSS10ペイプシアーレは、前日と同様に高速であることに変わりはないが、森のなかのステージはよりテクニカルで、コース脇には茂みや木々が張り出しておりコーナーがどちらに曲がっているのか見えにくく、まるで緑色のトンネルのなかを駆け抜けるようだ。

 ここで驚くべき速さをみせたのはロヴァンペラだ。ブリーンに対して8.5秒差をリードして前日を終えた彼は、ラリー最長のこのステージで1kmあたり0.6秒もライバルに差をつけるベストタイムを奪い、あっという間にリードを22.8秒差へと拡大してみせる。

「完全に目が覚めるようなステージだった。ここはラリーで最も難しいステージだ。僕は自分のやるべき仕事をやっていただけで、速いからといって特別なことをしたわけではない」と、ロヴァンペラは余裕の表情だ。

 しかし、ロヴァンペラのこの強烈なタイムはたしかにブリーンのハートにクリーンヒットすることになった。続くSS11ムストヴェーでは、金曜日に3本のパンクでリタイアのあとリスタートしたオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)が、ロヴァンペラに0.3秒差をつけるベストタイム、ブリーンはここでもロヴァンペラに2.8秒遅れをとり、二人の差は25.6秒へと広がってしまった。

 ブリーンは、ステージエンドでロヴァンペラを追う気持ちが中途半端なものだったと悔しさをにじませる。「ここでは中途半端だったよ。今朝の最初のステージで自分のすべてを出し尽くしたのに、カッレがスゴい速さをみせたからね。パートタイマーとしては十分な働きができたが、今はただこの位置をキープしていくことが必要だ」。彼は首位ではなくタイトルを争う彼の後方の3人に視点を移すことになる。

 ブリーンからやや離れた47.7秒後方の3位にはチームメイトのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が続くが、その後方にはトヨタ勢が迫っている。セバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)が5.9秒差、さらにエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)も17.8秒後方の5位に続いている。

 選手権で56ポイントの遅れをとるヌーヴィルはここでオジエに1ポイントも多くわたせない状況だが、「なんとかセブより前をキープしていきたい。グリップが落ちており、ハイスピードでミスをしてしまいがちなのでここではリスクは冒さないようにした」と、なかなかライバルを引き離せない状況を苦々しそうに説明した。

 タイトルを争う3人にとっては重要な1日になりそうだが、この重要な局面でヒュンダイが戦略を発動する。タナクがSS12ラーニツァへのチェックインを13分遅らせて、オジエを先に行かせてヌーヴィルの前でチェックインした。たった1台の違いとはいえ、理論上は少しでも路面はクリーンになるはずだ。トップ10が絶望的である以上、自らを犠牲にしてチームメイトをサポートする狙いがそこにはある。

 SS12ではそのタナクが連続してベストタイム。ステージエンドで彼は戦略を否定し、「今日はテストのチャンスで、少なくとも来年のために何かを学ぶことができる」と答えるにとどまった。ロヴァンペラが0.4秒差の2番手タイムで続き、2位のブリーンとの差は36秒差へ広がっている。

 SS13ヴァステムイサではブリーンが0.3秒を削りとることに成功したものの、ロヴァンペラが35.7秒へマージンを広げて朝のループを終えることになった。

 前ステージのあと少しクレバーになってもいいかもしれないと語ったロヴァンペラはここでは4番手タイム、それでも突然ペースを落とすことはかえってリスクもあるので、午後のループも集中して行きたいとステージエンドで語っている。「このようなラリーでは良いペースとリズムを掴むことが重要になる、なかなか気を抜くことはできないからね。2回目の走行はかなり厳しいものになるだろう、新しいステージはかなりラフで大きな轍がある状態だ、だからとにかくいい走りができることを期待したい」

 一方、ブリーンは、ロヴァンペラに対抗するためには何が必要かと聞かれて、「フルシーズン走ることだ、それは単純なことだよ」と語ったが、これまでの仕事ぶりには満足していると笑顔をみせている。「ステージによっては僕たちはすごくいい仕事ができると思うし、昨日のようなジャイアントキリングも可能かもしれない。でもこういった森の中の狭い道だとリスクは高まる。カッレには脱帽だが、僕らにはもう少しクルマで時間を費やしていくことが必要になる」

 タナクが朝みせた戦略で彼自身はSS13でもベストタイムを刻むことになったが、チームメイトへとサポートという意味では大きな効果をもたらさず、皮肉なことに2つのステージともにヌーヴィルはオジエに差をつけられ、リードは4.5秒に減っている。

 ヌーヴィルはオジエのタイムを知って失望している様子をみせた。「オイットのように速く走るためには本当にハードにいくことが必要だ。僕は自分のペースノートをじっくり聞くようにしていた」。その一方で、オジエはリスクを負ってヌーヴィルを捕まえる考えはまったくない。「今は少し慎重になっているが、このようなリスクを冒す必要はない。2回目の走行はかなり厳しいものになるだろう、新しいステージはかなりラフで大きな轍がある状態だろうからね」

 昨日の午後は黒雲が上空を覆って雷雨がステージを濡らすことになったが、今日は青空が広がり、気温も30度を超え、朝がたはやや湿っていたSS14ペイプシアーレの林のなかの路面はドライとなったが、その代わりに多くのコーナーではブレーキングポイントから出口まで深いわだちが刻まれている。ロヴァンペラはここでもブリーンを3.8秒上回り、リードを39.5秒へと拡大する。

 ブリーンはここでは3番手タイムもステージの状況が朝と一変、道の真ん中に留まることさえ困難だったと訴えた。「ひどいわだちだった。まるで自分が止まっているかのよう感じたところもある。ミスをするのはとても簡単で、わだちでどこでもラインを外されてしまった」

 ブリーンは続くSS15ムストヴェーでは6番手タイムと大きくペースダウン、ロヴァンペラとの差は45.6秒へと広がってしまったが、後続のヌーヴィルとの差も43.9秒と大きく開いており、彼はポジションキープの走りに完全に切り変える。

 ライバルの動向を見たロヴァンペラもSS16ラーニツァでは完全にペースダウン、残されたSS17ヴァステムイサ、そしてショートステージのSS18タルトゥを無難に走りきり、50.7秒という大きなアドバンテージを築いて土曜日を終えることになった。

「本当に素晴らしい一日だった。昨日はギャップは小さいと感じていたが、それを広げることができた。今朝の最初のステージのために僕らはたくさんの準備をした。大きな差を生むことができるステージだと思っていたからだ。これだのギャップを維持できたので、明日はもっと容易になるだろう」とロヴァンペラは語った。

 ブリーンは最後の短いステージでひやりとした瞬間に見舞われる。巻き上げられたダストに傾きかけた夕日が乱反射して見えにくい状況のなか、彼は右コーナーのイン側におかれた岩に右フロントタイヤから激しく乗り上げ、サスペンションにダメージを負いながらもどうにかゴールを迎えている。幸いにもコースはサービスパークに隣接しており、彼はこのあとマシンを修理して明日の最終日にはスタートすることができるだろう。

 注目となった3位争いだが、ヌーヴィルはタナクがSS17を前にヌーヴィルをサポートするためにふたたび戦略を発動、ステージにはダストが舞っているため、スタートへのチェックインを遅らせてヌーヴィルを先行させたあとでチェックインすることになる。オジエとヌーヴィルの走行間隔はこれで6分間へと広がり、クリーンな視界のなかでヌーヴィルがベストタイムを奪い、午後のループのスタート時点では4.5秒だったオジエとの差を最終的に17.9秒へと拡大してフィニッシュすることになった。

「僕たちにとっては前向きな一日だった。クリーンで良いリズムを持てたし、スピードを常にコントロールし、オジエから少しタイムを取り戻せた。暫定3位は悪い結果ではないが、明日もミスをしないように気を付けて、チームのために良い順位を獲得したい」

 一方、オジエは午後のループの荒れた路面のなかでペースを落としたと語り、戦う相手はヌーヴィルではなくて選手権2位につけるエヴァンスだったとクールにコメントした。「このようなステージではまったくプッシュせず、ただ通過しただけだ。一番の目的はチャンピオンシップのために競うことだった。だから現時点で僕が競っているのは、ティエリーではなく、エルフィンだ。そして彼より上の順位にいるので、それは良い結果となったことだ」
 
 エヴァンスはオジエから23.4秒差の5位で続いているが、わだちに苦しんだのは誰もが同じだが、オジエとの戦いをまったく主導権を握れないまま2日目を終えたことに彼は肩を落としていた。「これまでのところ、最高の週末とはいえない。本当に望んでいたペースを掴むことはできてないからね。でも、できる限りの努力を続けるよ」

 Mスポーツ・フォードのテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)は初日のメカニカルトラブルとパンクのため大きく遅れており、エヴァンスから4分余り遅れた6位となっている。サスペンションのセットアップは改善したと彼は語っているが、この日のオープニングSS の緩やかな左コーナーで大きくスライドして道路脇の木々の隙間にオフするなど高速ステージのペースになかなかなじめていないようだ。

 ピエール-ルイ・ルーベ(ヒュンダイi20クーペWRC)は金曜日の最終ステージでコースオフしそうになったものの、この日は無傷でラリーを終えるという目標を達成すべく慎重なペースをキープし、スニネンの1分18秒後方の7位でゴールを迎えている。

 ラリー・エストニア最終日は、タルトゥ南部の6SS/52.10kmという短い一日となるが、ノーサービスで走りきらなければならないため、ミスは最後まで許されない。はたして史上最年少20歳のウィナーが誕生することになるのか。オープニングステージのネールティは現地時間7時21分(日本時間13時21分)のスタートとなる。