WRC2024/04/22

オジエがクロアチアで逆転勝利、トヨタが1-2

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 2024年世界ラリー選手権(WRC)第4戦クロアチア・ラリーは波乱の最終日となり、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が今季初優勝、チームメイトのエルフィン・エヴァンスが続き、トヨタGAZOOレーシングWRTが1-2勝利を飾ることになった。また、今季からの新しいポイントシステムのもとで日曜日のみの順位で争われる「スーパーサンデー」は、2つのベストタイムを奪った勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が制した。

 晴れた朝を迎えたザグレブ。気温は6度と肌寒く、最高気温も16度と予想されており、雨のない最終日になりそうだ。日曜日はザグレブ北部エリアの昨年と同じ舞台となり、まるで高速サーキットのようなトラコスチャン〜ヴルブノ(13.15km)、そしてバンピーで狭くテクニカルなザゴルスカ・セラ〜クムロヴェツ(14.24km)の2つ特徴の異なるステージを2回ループする4SS/54.78kmという短くもトリッキーな一日となる。

 さらに日曜日はミッドデイサービスもなく、タイヤフィッティングゾーンも設けられていないことから、朝のサービスがこの週末の最後のタイヤ選択の機会となり、最後のパワーステージもこのタイヤセットで走らなければならない。

 トップ3ドライバーはいずれもスペア1本で、ラリーリーダーのティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)はハード1本のみでソフト4本としたのに対して4.9秒差の2位につけるエヴァンスはハード3本とソフト2本、オジエはハード2本とソフト3本を組み合わせ、完全に戦略が分かれている。

 短い最終日とはいえハードが少ないヌーヴィルの選択はギャンブルにも見えるが、彼は2023年の最終日はスペアなしのソフト4本のみで臨み、パワーステージを制している。

 最終日のオープニングステージのSS17トラコスチャン〜ヴルブノは全体的に高速で、道幅も広く、クリーンなターマックの路面が続くが、突然、かき出されたグラベルに覆われたコーナーが現れるなど、ドライバーたちを驚かせることになった。

 エヴァンスが首位のヌーヴィルを3.2秒上回り、2.6秒差に迫ることになり、これで優勝争いは完全にわからなくなった。ヌーヴィルと3位のオジエは同タイム、オジエのビハインドは11.6秒のままだ。

 誰のタイヤ戦略が最も優れているかを聞かれたエヴァンスは終わってみるまで分からないと答えたが、ここでは順調なスタートを切ることができたと喜んだ。「何人か通過した後なので、道路は非常に汚れているが、僕たちにとっては良い走りができた」

 一方、タイムを失ったとはいえ、ヌーヴィルはソフトを重視したタイヤ戦略は2回目の走行のためのだと語った。「このステージの2回目の走行はもっと汚れているだろう。次のステージは僕たちがより良いタイヤを持っていると思う。大丈夫だ、今朝は汚れた道路でタイムを少し失うが、思いっきりプッシュするよ」

 6位につける勝田がこの週末初のベストタイムを獲得した。5位につけるアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)が2番手タイム、4位のオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)との差を16.7秒へと縮め、逆転への野心的なペースをみせている。

 だが、続くSS18ザゴルスカ・セラ〜クロムヴェツにはこの週末最大のドラマが待っていた。2回目の走行がパワーステージとして行われるこのステージは、ハイスピードなのはもちろんだが、見通しの悪いクレストやジャンプが多く点在し、非常にナローでミスを誘う罠がいくつもある。見通しの悪いクレストやジャンプが多く点在し、ダートで滑りやすくなった狭いコースではラインを外れてスライドしてしまうとすぐに捕まってしまう。また、その一方でインカットを防ぐためにコース脇にたくさんのアンチカットディバイスが設置され、バンピーな高速セクションのコースを狭くしている。

 2位につけていたエヴァンスが狭い森のなかのダーティなセクションでスピン、リヤをバンクにヒットしたものの幸いにもマシンにはダメージはなく、リヤバンパーに木の枝が付着したマシンで19.6秒を失ってフィニッシュすることになった。「滑りやすい場所で、左リヤを強くヒットしてしまい、そのまま飛び出してスピンしてしまった。(クルマは)大丈夫だ」

 だが、波乱はこれだけで終わりではなかった。後方のヌーヴィルも似たような森のなかの狭いエリアのマディな路肩でスライド、木立にオフしてしまう。衝撃は大きかったが、彼は右フェンダーを壊してリヤウィングが吹き飛んだマシンで23秒あまりを失ったものの、どうにかフィニッシュすることになった。ヌーヴィルはペースノートのタイミングが遅かったと認めたが、それを責めるつもりはない。「コーナーが多く、ペースノートを聞いたときはすでに遅すぎた。・・・すべてがうまくいっていただけに残念だ」

 二人のトラブルでリーダーボードは大きく変わることになった。3位のオジエが首位に浮上、9.1秒差で2位にエヴァンス、さらに1.1秒遅れの3位にヌーヴィルというオーダーとなる。

 さらにタナクをプッシュしていた5位のフールモーが、バンピーな切り返しが続く高速セクションでラインを外してアンチカットディバイスに右フロントをヒット、ステアリングを壊してグラスエリアにオフしてしまう。彼は草むらでどうにか修理して15分遅れながらフィニッシュすることになり、これで勝田が5位に浮上した。

 さらにタナクも大きくオフして完全にコースを外れてヒヤリとした瞬間に見舞われながらもマシンを立て直してベストタイムを奪った。「かなりオフしたよ。始まったばかりのブレーキングだった。ステージのかなり早い段階、3〜4kmくらいかな。でも幸いに僕たちは大丈夫だ」

 トラコスチャン〜ヴルブノの2回目の走行のSS19も勝田がベストタイム! ここまでスーパーサンデーのランキングでトップに立っている。

 オジエがエヴァンスに対して6.4秒差をつけて首位をキープ、残すは最終ステージのみとなった。エヴァンスのドライバーズ選手権のためにトップをチームメイトに譲ることもあるのだろうか? しかし、オジエはそうした憶測を否定、「それは高くつくよ!ベストな者が勝利する、それがスポーツのあるべき姿だ」と迷わず勝利を目指す。

 リヤウィングを壊し、さらにハイブリッド・ブーストも失っているヌーヴィルは、エヴァンスのペースにははるかに及ばず、ここだけで11秒も失ってしまった。それでも後続のタナクは41秒あまりも後方のため3位のポジションを守ることはできそうだ。

 そして迎えたザゴルスカ・セラ〜クロムヴェツの2回目の走行として行われるパワーステージ。1回目の走行では多くの予期せぬドラマが発生したが、ここでは危ない瞬間もないクリーンなステージとなり、オジエが自身のWRC100回目の表彰台を、勝利で飾った。また、この勝利によって、トヨタのクロアチア勝率100%の記録が守られた。

「100は素晴らしい数字だ、もちろんうれしいよ!」とオジエは語っている。「僕たちはスタート前、難しい出走順であることを知っていた。しかし、週末を通して決して諦めず、プレッシャーをかけ続けた。ひとつのラリーでこれほどヒヤッとする瞬間があったことはない!チームのために勝利を獲得出来てよかった。そして僕たちが今もまだ速さを維持できていることはうれしいことだ」

 2位にエヴァンス、3位にヌーヴィル、4位にはタナク、そして5位には勝田が続くことになった。勝田は最終日に2つのベストタイムを奪い、スーパーサンデーでタナクに1.8秒差でトップでフィニッシュ、チームの選手権に貢献できたことを喜んでいる。「1回目の走行ではあまりにたくさんサプライズがあったので、ステージ全体を通して慎重になり過ぎてしまった。こういう終わり方はしたくなかったが、ラリーを無事に終えてチームのためにいくつかポイントを獲得できたことは良いことだ」

 フールモーは朝のドラマで総合17位まで後退したが、キャリア初のパワーステージ勝利を獲得して印象的な走りでクロアチアを締めくくった。

 第4戦クロアチア・ラリーを終えて、最終日のドラマはあったものの、ヌーヴィルが86ポイントで選手権リーダーを維持、エヴァンスが80ポイントで続くことになった。選手権を争う二人はともに今週末は19ポイント獲得で並んだため、6ポイント差のまま次戦へと向かう。パワーステージを制したフールモーが59ポイントで3位をキープ、タナクが53ポイントへとポイントを伸ばしている。また、スーパーサンデーを制して7ポイントを獲得するとともに4番手タイムのパワーステージでも2ポイントを加えた勝田が45ポイントでオジエと並んで選手権5位で続いている。

 また、マニュファクチャラー選手権では、1-2勝利を飾ったトヨタが176ポイントまでポイントを拡大、サファリのあと4ポイント差だったヒョンデの差を7ポイントに広げている。Mスポーツ・フォードは96ポイントで続いている。

 次戦は5月9〜12日に行われる今季初となるヨーロッパのグラベルラウンドとなるラリー・デ・ポルトガルだ。