WRC2024/04/20

クロアチア初日、ヌーヴィルとエヴァンスが首位

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 2024年世界ラリー選手権(WRC)第4戦クロアチア・ラリーは、19日金曜日のレグ1を終えてティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)とエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が同タイムでトップを分け合ってラリーをリードしているが、その後方6.6秒差にはセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が迫っている。

 クロアチア・ラリーのレグ1はザグレブの南西エリアからアドリア海に面したクロアチア有数の港湾都市リエカまでのコースを往復する長くチャレンジングな一日となる。ラリー最長のクラシッチ〜ソシツェ(23.63km)、ヤシュコヴォ〜マリ・モドゥルシュ・ポトク(9.48km)、ラヴナ・ゴーラ〜スクラド(10.13km)とプラタック(16.63km)の朝の4ステージのあとにはミッドデイサービスは設けられない。アドリア海に面したリゾート、リエカに近いツェルニクに設けられたタイヤフィッティングゾーンをはさんで、朝と同じ4ステージを逆順でループして北上する、8SS/119.74kmが設定される。

 二日前にはコースの一部に雪が降ってレッキ中のドライバーたちを驚かせたが、ラリー初日の金曜日は晴れた朝となっている。それでもSS1クラシッチ〜ソシツェのスタートする8時の時点で気温は7度しかなく、ピレリは今週末はハードタイヤをファーストチョイスとして指名したにもかかわらず、ほとんどドライバーがソフトタイヤを中心に戦略を組み立てて朝のループに向かっている。トヨタ勢がいずれも2本以上ハードを積んでいるのに対して、ヒョンデ勢はソフトが多い冒険的なチョイスとなっており、なかでもオイット・タナクはソフト5本のみという勝負を賭けた選択となっている。

 クロアチアのターマックはいくつものグリップレベルをもつ滑りやすい路面でも知られ、さらにインカットで泥や砂が路面にかきだされることでさらに滑りやすくなる。ラリー最長のクラシッチ〜ソシツェは一番手スタートからもっともクリーンな路面を走ったヌーヴィルが予想どおりの速さをみせて、2番手タイムのエヴァンスに6.6秒差をつけてラリーをリードすることになった。

 それでもヌーヴィルはそれほどいいフィーリングではなかったと不満そうな様子をみせる。「地獄のようなアンダーステアに苦しんだ。思ったよりもグリップが低かった。3km走ったところでタイヤがオーバーヒートした感じだった。表現しずらいが、リズムは取り戻したものの、スリッパリーでスローに感じた。あまり良いフィーリングではなかった」

 1本しかハードをもたず、ここでは4本ともソフトだったヌーヴィルに対して、エヴァンスとチームメイトのオジエはハードとソフトを3本ずつ選択してスタートしている。エヴァンスはヌーヴィルに6.6秒も引き離されたことにそれほど意に返さず、路面温度が低いここではハードは勇敢なチョイスだったと認めたが、それでも後続を大きく引き離し、3番手のオジエよりも7.9秒速かった。

 6番手という後方からスタートしたオジエは、右フロントタイヤをスローパンクしているが、トップのヌーヴィルより14.5秒遅いことを嘆いた。「僕たちにできることはあまりないが、出来ることをしている。彼のタイムに匹敵するのは不可能だ。常に(コンディションが)良くなることを願っている」

 ライバルたちより1本少ないスペアのタナクは、ヌーヴィルのタイムから17.8秒遅れの4番手タイムに終わったが、マシンの挙動に不安を感じるほどにかき出された泥と砂が多かったとコメントしていた。

 Mスポーツのアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)はタイヤのオーバーヒートに苦しみながら20.4秒遅れの5番手タイム、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)はさらに16秒遅れの6位で、グラベルクルーからの情報と実際のコンディションの差にとまどってコミットできなかったと語っている、「かなり厳しいコンディションだ。(自分たちの持っていた)情報には満足していないし、コーナーごとにタイムを失っているよ」
 
 アンドレアス・ミケルセン(ヒョンデi20 N Rally1)はジャンクションをオーバーシュート、オープニングステージですでにトップから50.7秒差の7番手となっている。

 SS2ヤシュコヴォ〜マリ・モドゥルシュ・ポトクのハイスピードのまるでフィンランドのようなクレストのあるコースで速さをみせたのは2位につけるエヴァンスだ。彼は、ヌーヴィルを1.7秒下すベストタイムを奪い、ヌーヴィルの4.9秒差に迫ることになった。

 しかし、ヌーヴィルはSS3ラヴナ・ゴーラ〜スクラド、SS4プラタックで連続してベストタイムを奪い、エヴァンスに8.6秒差をつけて朝のループを終えることになった。

 ヌーヴィルは一番手という走行順の恩恵を受けたが、自身の走りには満足していなかった。「アタックなんてできないよ。スムーズでクリーンでなければならない。もう少し速く走りたいけど、これが現実なんだ。まだトリッキーなコンディションだから、できるだけ慎重に走るようにしている」

 ソフトとハードを3本ずつチョイスして朝のループをスタートしたエヴァンスは、ここではヌーヴィルから0.2秒遅れにとどめたものの、全体的にはここではソフトを多めに選びたかったとふりかえっている。「もう少しタイヤ選択を考えるべきだった、あのダウンヒルではそんなクリーンな走りはできなかったよ」

 3位のオジエは路面の汚れに苦しみながらもここではわずかに0.3秒遅れにとどめたものの、トップのヌーヴィルからは21.5秒遅れとなってしまったが、それでも後方のタナクを15.8秒引き離している。「いい走りだったし、自分のループは満足できるものだった。予想どおり少し順位は下げたけど、もう少し良くなることを期待している。(タイヤは)確実に選択を間違ったと思っていたけど、今はこの選択に満足しているよ」

 ソフトタイヤを5本しかもたなかったタナクは、朝のループでトップから37秒も遅れたのはタイヤ選択のせいではマシンのフィーリングだと認めた。「どうしてなのか、わからないけれど、モンテの時よりもかなり苦戦しているよ」

 SS2、3と連続して4番手タイムを叩きだしてタナクに1.3秒差まで迫ったフールモーは、タイヤのグリップに悩まされて4.3秒差の5位で朝のループを終えており、ペースが上がらない勝田はトップ5からは30秒近く離された6位にとどまっている。

 朝のループのあと、アドリア海に面したリゾートのリエカにも近いツェルニクでのタイヤフィッティングゾーンが行われ、朝と同じ4ステージを逆順で走行してザグレブへと戻る。気温が上がる午後のループに向けて全ドライバーがハードタイヤを主体に選択したが、 朝のループでは路肩に雪が残っていたプラタックの2回目の走行となるSS5では、なんと前半のスキー場へ上る狭いターマックは雪が舞い、雨が降り始めている。

 朝の勢いのままにヌーヴィルがベストタイムで首位をキープ、エヴァンスとの差を10.1秒へと広げることになった。しかし、午後のループでの巻き返しを誓っていたオジエはライバルたちよりウェットとなったコンディションに手をやき、ここでも5.4秒遅れ、トップから26.9秒もの遅れとなってしまった。「路面が濡れているときにドライで走っているドライバーと競争するのは難しい。このまま続けば、僕たちには全くチャンスがないよ」とオジエは首を横に振る。

 だが、続くSS6ラヴナ・ゴーラ〜スクラドでオジエの強い願いがチャンスを引き寄せる。ヌーヴィルは5km地点で石をヒットして右フロントタイヤを少しずつスローパンク、残り2km地点でついにリム落ちしてしまい10秒をロス、2位のエヴァンスが0.1秒差、3位のオジエも18秒差に迫ることになった。「道路に石があったので避けようとしたが、すぐにタイヤがパンクしたので、かなりギリギリだったのだろう。パンクのあとは、生き残ることだけ考えた」

 ヌーヴィルはかき出された石などが多く、グラベルクルーからの情報と路面コンディションがあまりに異なることが問題だと首を横に振る。「グラベルのクルーから何の情報も得られないから仕方ないが、あのスピードではサプライズも多い。自分のフィーリングを信じ、目を見開いて行くしかない」

 SS7ヤシュコヴォ〜マリ・モドゥルシュ・ポトクでは、リズムを崩したヌーヴィルがタイムを落とすなか、エヴァンスが左リヤタイヤをリム落ちさせながらも目一杯の走りで2番手タイム、ヌーヴィルを1.6秒差で交わして首位に躍り出すことになった。

 それでもこの日最後のラリー最長の23.63kmのクラシッチ〜ソシツェ・ステージでヌーヴィルはその遅れを取り戻し、同タイムでトップを分け合うことになった。

「自分にできることはやった。これ以上できることはあまりない」とヌーヴィルはふりかえるとともに、このステージで気力をふりしぼったと明かした。「あのパンクは避けられたかもしれないことなので、本当にがっかりしたんだ。あのタイムロスの後、モチベーションを上げるのに必死だった」

 2人はまったくの同タイムで金曜日を終えたとはいえ、デッドヒートのルールに従ってSS1でより速いタイムだったヌーヴィルを暫定トップとなるため、リバースでスタートする明日のスタート順はエヴァンスが前方でスタートすることになる。そのため、わずかだがエヴァンスのほうが路面コンディションが良いロードオーダーで走ることになる。「そうだ、僕の方が明日、先に走れるね! 正直言って、最後はあまりいいフィーリングではなかった、カットだらけで本当に難しかった」

 ヌーヴィルのパンクで俄然、チャンスとばかりに終盤でペースを上げたのは8度のワールドチャンピオンであるオジエだ。彼はSS7のベストタイムでトップに17.6秒差につけたあと、SS8でも驚異的なペースでベストタイムを奪い、ヌーヴィルとエヴァンスに6.6秒差まで迫ることになった。「いい走りができた、これは間違いなく満足できるステージだ。朝のロードポジションからこれだけ差を詰められたのはうれしいよ。明日はまた違うラリーがスタートする」と彼は目を輝かせた。

 タナクは朝のループではタイムが上がらなかったが、ディファレンシャルのセッティングを改善したことで今週末は初めて競争力が高まったと認め、トップ3からは34.5秒も離されているが、タナクは「明日はまた別のラリーになるかもしれない」と明るい表情だ。

 朝のループをタナクから4.3秒遅れで続いていたフールモーはSS6で左フロントタイヤをスローパンク、ペースアップしたタナクにじわじわと匹名離され、最終的に二人の差は11.6秒に広がっている。
 
 勝田は金曜日を通して不本意なペースに悩んでいたが、最終ステージで4番手タイムをマークしてようやく上位陣に並ぶ速さをみせている。「このステージでは頑張ったよ、タイムはかなり良かったね。他のステージではなんであんなに遅かったのか分からないよ。変なフィーリングだったんだ。明日はまたトリッキーな1日になるだろうから、今はしっかり集中することが必要だ」

 もっとも難しいコンディションを走るミケルセンは勝田から1分遅れ、トップから2分37秒も遅れた7位で続き、ミュンスターはミケルセンから29.5秒遅れの8位をキープしている。

 天気予報は明日の土曜日が雨になると伝えており、いっそう難しいコンディションがドライバーたちを待ち受けることになる。オープニングステージのグルダヌチは現地時間7時31分、日本時間14時31分のスタートが予定されている。