WRC2021/04/25

オジエ、波乱を乗り越えてクロアチアで勝利

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 2021年世界ラリー選手権(WRC)第3戦のクロアチア・ラリーは4月25日に最終日を終え、セバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)がロードセクションで一般車と接触してマシンにダメージを負うという波乱を乗り越えて優勝。2位にもエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)が入り、トヨタGAZOOレーシングWRTが1-2勝利を飾ることとなった。

 最終日の朝、サービスパークが置かれたザグレブ・フェアは明るい陽光に包まれた。朝7時の時点で気温は6度、日中は18度まで上昇するという予報だ。ラリーはザグレブ北部に設定されたブリズネツ〜ピラ(25.20km)とザゴルスカ・セラ〜クムロヴェツ(14.09km)の2つのステージをノーサービスで2回ループする4SS/78.58kmの行程となり、2回目のザゴルスカ・セラ〜クムロヴェツの走行がパワーステージとなり、ボーナスポイントが与えられる。

 走行順は、金曜日のリザルトのリバースで2分間隔のスタート。前日のSS14でコースオフしてデイリタイアとなったピエール-ルイ・ルーベ(ヒュンダイi20クーペWRC)を先頭に、1.ルーベ、2.クレイグ・ブリーン(ヒュンダーi20クーペWRC)、3.勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)、4.ガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)、5.アドリアン・フールモー(フォード・フィエスタWRC)、6.オイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)、7.エルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)、8.ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20WRC)、9.セバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)のオーダーとなる。

 各クルーのタイヤ選択は、ルーベとフールモーがハード4本+ソフト2本、そのほかのすべてのドライバーがハードタイヤ6本をチョイスしてスタートしていった。

 クロアチア・ラリー最終日は、ザグレブの北に位置するメドベドニツァ山を越えるラリー最長のステージで幕を開ける。25.20kmの距離を持つSS17ブリズネツ〜ピラは、ステージ開始から3分の1地点までに上り坂のヘアピンカーブが約20個あり、そのほとんどが古いターマック路のため、厳しいスタートとなる。その後はナローでツイスティなセクションを挟んで、中盤以降はワイドで流れるようなコースだ。ステージ最終盤のダウンヒル区間はハイスピードを保ったままフィニッシュに向かう。

 このステージでは「グリップがとても低いので、プッシュできる場所や抑える場所を判断するのがとても難しい」と語ったエヴァンスがベストタイムを刻んだ。首位のオジエはステージに向かうリエゾンで一般車と接触して、コドライバー側のドアとフロントエアロにダメージを負ったままの走行。これでエヴァンスとオジエとの差は4.2秒に縮まった。ヌーヴィルが2番手タイムで首位とは9.1秒差と射程圏内にある。「僕にとっては良いドライブではなかった。非常にスリッパリーなコーナーがあり、グリップレベルに確信が持てなかった。次のステージでは改善したい」と話す勝田が3番手タイムを記録している。

 SS18のザゴルスカ〜セラクムロヴェツは、ハイスピードだが道幅が極めて狭く、不意をつくように難所が数多く盛り込まれたコースだ。ブラインド・クレストやジャンプが散らばり、予想以上にドリフトしてラインを外れるようなことがあれば、道路脇を固める木々に捕まることになる。急激なダウンヒルと路面に残された落葉はさらなる危険要素をプラスし、道幅が広くスムーズになるフィニッシュ直前まで気が抜けない。

 一般車との接触でドアやエアロにダメージを負っているオジエは、ここでもタイムが伸びない。衝突によるダメージがパフォーマンスに影響を与えているのかは定かではなく、オジエ本人も大丈夫だと話しているが、連続ベストタイムを刻んだエヴァンスに抜かれて2.8秒差の2位へと後退した。「トリッキーな朝になったが、まだ終わったわけではない」と気を引き締める。

 セカンドベストはヌーヴィル。「リヤのホイールにグラベルが入っていると思う。かなりの振動がある。低速コーナーで少しだけスライドしたが大きな問題はなかった。でも相当ヤバいステージだったのは確かだ」と猛プッシュしたステージを振り返る。首位エヴァンスとの差は8.4秒、オジエとの差は5.6秒だ。

 5位につけていたフールモーは、スタートしてすぐの0.2km地点の右コーナーで膨らみすぎてディッチにスタック。1分以上をロスしてしまう。「ハードタイヤが温まっていない状態で、注意が足らなかった。マシンは道路からスライドオフしてしまった。コースに復帰できたのはラッキーだった。今ここにいるということ、それが僕たちには大事だ」と話す。グリーンスミスはパドルシフトにトラブルを抱え、マニュアルのギヤレバー操作での走行となりタイムロス。5番手タイムを記録した勝田がパス、フールモーの14.9秒差の6位に浮上してきた。

 ラリーはリフェーエルを挟んで、再びブリズネツピラのステージへと向かう。オジエの右ドア・パネルは大きく破損しており、露出している衝撃フォームはテープで固定されている状態だ。そのためリフェーエルで急遽、FIAテクニカルデレゲートによってマシンのセイフティ・チェックが行われ、ラリー続行が正式に認められた。それでも日曜日のデイサービスはないため、オジエはエアロにダメージのあるマシンを完全に修理することなく、残されたリピートの2ステージを走らなければならない。

 オジエは、ブリズネツピラの高速コーナーでふらつくマシンを信じられないほどの制御でコントロール、ダメージを負ったマシンで奮闘する。ステージを走行中にコクピットにダストなどが侵入しているためか、コドライバーのジュリアン・イングラシアはステージではゴーグルを装着している状態だ。

 ここでベストタイムを刻んだのは猛プッシュを続けるヌーヴィル。エヴァンスが0.4秒差のセカンドベストで続く。首位エヴァンスとオジエの差は3.9秒へとわずかに広がり、3位のヌーヴィルはオジエの4.1秒差に迫ってきた。

 クロアチア・ラリーの最終ステージは、パワーステージの掛けられたSS20、ザゴルスカ・セラ〜クムロヴェツの2回目の走行だ。最終ステージを前にトップ3台が8秒の間でせめぎあう状況について問われると、オジエは「どうだろう。わからないな、何か風が吹くかもしれないしね」と意味深な発言をしていた。

 最終ステージはこれまでの順位のリバースでのスタートとなり、勝利を争う3人のうち、最初にスタートしたのは3位で追いかけるヌーヴィルだ。彼は限界ギリギリの走りで攻め立てたが、終盤のジャンクションでオーバーシュート、「プッシュしたが、ジャンクションで3秒余り失ってしまった。限界まで攻めたけれど・・・。結果には満足しているよ。ハッピーだ」とコメントする。

 オジエはヘビのようにうねるような高速のローラーコースターでリヤを激しくスライドさせながらも1回目のループで記録したエヴァンスのタイムを4.4秒上回るスーパータイムを叩き出した。それでも、彼は「勝利のためにはこのタイムでは十分でないと思う。朝以降、僕にとっては波乱の週末になってしまった。だがここから前を向いていかなければならない」と語り、エヴァンスのゴールを待ち受ける。

 そして注目のエヴァンスは、最終区間でマシンがワイドになり土手に乗り上げてタイムロス、歓喜の祝福のないステージエンドにマシンが到着する前にすでに彼はコクピットのなかで敗北を悟ったようだった。「最終コーナーだ。ルーズに入ったために次のコーナーがうまくいかなかった。そこだけではないけれど、タイムロスしてしまった」と4番手タイムに終わる。オジエは0.6秒差で逆転。今季2勝目を挙げることとなった。

 4位には土曜日にパンクで順位を落としたタナクが入り、5位には健闘したフールモー。6位には2つのベストタイムを記録した勝田がつけた。「とても厳しい週末だったが、良いステージタイムもあった。グラベルクルーとチーム全員に感謝したい」と語った。

 初開催のクロアチア・ラリーを終えて、ドライバーズ選手権では開幕戦に続いて2勝目を飾るとともにパワーステージも制したオジエが61ポイントでトップに浮上、53ポイントのヌーヴィルが2位、51ポイントのエヴァンスが3位、40ポイントのタナクが4位で続き、選手権リーダーとしてクロアチアに臨みながらも初日のクラッシュでノーポイントに終わったロヴァンペラは39ポイントのまま足踏みすることになった。

 また、マニュファクチャラー選手権は、開幕戦に続いて2度目の1-2勝利を飾ったトヨタが138ポイントを獲得、首位をキープするとともに11ポイント差に迫っていたヒュンダイとの差をふたたび27ポイントへと広げることに成功している。

 次戦の第4戦ラリー・デ・ポルトガルは5月20日にスタートする。