WRC2021/07/17

タナクが消え、ロヴァンペラがレグ1をリード

(c)Toyota

(c)Hyundai

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 2021年世界ラリー選手権(WRC)第7戦ラリー・エストニアは、優勝本命と見られていたオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)がリタイアするという衝撃の展開となり、この日、6つのベストタイムを奪ったトヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)がラリーをリード、8.5秒差の2位にはクレイグ・ブリーン(ヒュンダイi20クーペWRC)が続いている。

 金曜日はタルトゥ南部のステージを舞台とした8SS/130.54kmの一日となる。アルーラ(12.68km)、オテパー(17.05km)、カネピ(16.54km)を走り、昨年はパワーステージとして行われたカンビヤ(17.85km)の4ステージをラーディのサービスを挟んで2回ループする8SS/128.24kmの1日となる。

 前夜に行われたスーパーSSでリードを奪ったのはロヴァンペラだが、1.64kmと短いためトップ10が1.2秒にひしめいており、その差はないに等しい。金曜日のオープニングステージのSS2アルーラでベストタイムを奪って首位に立ったのは、前夜のスーパーSSでは慎重なペースでティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)とともに8位を分け合ったタナクだ。

 タナクは、クロスカントリースキー場で知られる高速ステージのアルーラで、ジャンプのあとワイドになるヒヤッとするシーンをみせながらも、アクセルを緩めずにベストタイム。10カ月ぶりのWRカーでのグラベルラリーにもかかわらず、11.1秒差の2番手タイムを奪ったブリーンがロヴァンペラを抜いてタナクから0.3秒差の2位へとぴたりと付ける。

 タナクはここでは飛ばしすぎたことを反省したかのように、「僕たちはここで戦っている、だから最大限を尽くして、楽しみすぎないようにしないと。楽しんでばかりだとしたら、それは僕たちがかけ離れたところにいることを意味する」と語ることになったが、SS3オテパー・ステージでまさかの出来事が待っていた。なんと彼は右フロントタイヤをパンク、そのまま走行したためタイヤは完全にバーストしてリムだけの状態でフィニッシュすることになった。

 2年連続での地元戦勝利が期待されていたタナクだが、ここで20.7秒をロスして7位へと後退しただけではなく、フロント回りのダメージは予想以上に大きく、吹き飛んだゴムがサスペンションにからまっており、ブレーキラインなどに影響を及ぼしているようにも見える。

 ドラマに見舞われたのはタナクだけではない。昨年、タナクに続いて2位でフィニッシュしたブリーンは、ウォーターポンプ・トラブルとみられる症状でスロー走行するガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)が巻き上げる激しいダストに視界を阻まれてスロー走行を強いられる。ブリーンのインカー映像は高速コーナーのアペックスがまったく見えないほどに酷いものだったが、コドライバーのポール・ネーグルはブリーンを安心させるように「心配しなくても、このタイムの遅れは取り戻せるよ」とペースノートを読む合間に語りかけることになった。

 ブリーンはここで10.2秒をロスしてフィニッシュ、ベストタイムを奪ったロヴァンペラが首位へ浮上、ブリーンは9.2秒差の2位となったかに見えた。しかし、主催者の判断は早く、ネーグルの予告したとおりにブリーンにはロヴァンペラと同タイムの8分30.6秒のノーショナルタイムが与えられ、ブリーンが首位、1秒差の2位にロヴァンペラというオーダーへと変更となっている。

 3位には首位から12.6秒差のティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)、ヌーヴィルの1.6秒後方の4位には一番手スタートながらここでは3番手タイムと健闘しているセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)が続き、さらに2.3秒差で勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)が5位で続いている。

 波乱の始まりとなったエストニアだが、SS4カネピではさらなる衝撃が待っていた。パンクのために26.3秒差の7位まで後退したタナクが、中間スプリットでは遅れを挽回するように驚異的な速さをみせていたが、高速の右コーナーでリヤをスライドさせて草むらへとコースオフしてしまう。タナクは大きなロスタイムをなく急いでステージへと戻ったものの、すぐにペースダウン、コースを外れてアクセスロードに入り、マシンを止めることになった。

 タナクは当初、コース復帰したあと、スローダウンをする直前に、フロントから大きなパーツが吹き飛ぶインカー映像が映し出されたことからラジエータにダメージがあったのではないかという憶測もあったが、サービスへと戻ったタナクはリタイアに至った原因がダブルパンクであり、続行は不可能だったと認めている。「ステージの最初の方で、コーナーで大きくはみ出してしまい、フィールドに出てしまったんだ。前のステージで1本、ここで2本のパンクをしてしまい、もうスペアはなく、続行は不可能だった」

 タナクは今季開幕戦ラリー・モンテカルロでダブルパンクのあと3輪で走行したことにより、ラリー続行を認められずにリタイアとなっており、今回はオフィシャルに止められる前に自らマシンを下りることを選んだ。

 優勝候補本命が消え、ブリーンとロヴァンペラのトップ争いに注目が集まったが、マシンに問題を抱えるグリーンスミスが9.9km地点でコース脇にストップしたことにより、ふたたび後続のブリーンにとってはフラストレーションとなる出来事が待っていた。

 6速全開のコーナーでマーシャルの見られる人物がコース中央まで出てオレンジ色のタバードを振っていたため、ブリーンは赤旗と勘違いしてあわててスローダウン。3.5秒を失った彼はロヴァンペラに2.5秒差で首位を譲ることになった。「ステージの真ん中で誰かが腕をクロスさせて危険があるように示していたので、クレストに上ではロードモードにしてゆっくり走ったら、彼(グリーンスミス)はコーナーからずっと離れたところにいた。危険でなければアクセルは全開でなければならない。あれでは踏めないよ」

 主催者はふたたびブリーンにノーショナルタイムを与え、2.3秒タイムを救済されたが、順位の変動はなく、ロヴァンペラが0.2秒差でリーダーを奪回することになった。

 このステージでは、ヒュンダイ勢にさらにドラマが続き、3位につけていたヌーヴィルが左リヤタイヤをバーストして17.5秒をロス、5位へと後退することになった。これで3番手タイムを奪った勝田がオジエを抜き、5位から3位へとポディウム圏内へとポジションを上げている。

 だが、勝田はSS5カンビヤ・ステージへと向かうロードセクションでコドライバーのダニエル・バリットが背中の痛みを訴えたため、マシンを止めてリタイアを決めている。バリットは病院で検査を受けた結果、幸いにも骨折などのケガはしていないことが判明したが、医師の忠告に従ってラリーを続行することを断念、トヨタは二人が明日の土曜日にはリスタートを行わないことを発表している。

 朝のループの最後のステージとなるSS5カンビヤでは、ロヴァンペラが渾身とも言える速さをみせるベストタイム、0.2秒差だった2位のブリーンとの差を一気に7.1秒に拡大してみせた。ロヴァンペラは昨年、優勝候補の一人に挙げられたが、序盤のパンクでそのチャンスをなくしているが、パワーステージとして行われたカンビヤで最速タイムをマークしている。「このステージ、僕は好きなんだ。昨年はパワーステージだった、今回はソフトタイアがやたら動き回り、グリップもどんどん走りづらくなってきていたため、クリーンは走りではなかったよ」

 いっぽう、ブリーンは、「以前に他のドライバーの走りを見ていたので、ジャンプに慎重になった。変な角度で着地しないように、タイヤを脱落させないように気をつけたんだ」と、ここでは慎重すぎたと認めることになった。それでも、不調のグリーンスミスに2度も追いついて走行を妨げられながらも、失いかけたリズムをよく維持できている。「ここはクリーンなループだった。マシンの外で多くのドラマがあったが、それを除けばすべてがうまくいっているよ」と満足そうに語っている。

 勝田がリタイアしたことでオジエは一番手スタートにもかかわらず、朝のループを33.5秒差の3位で終えており、6.8秒差の4位でヌーヴィルが続いている。SS3のジャンクションで少し混乱してオーバーシュート、さらにそのあとの左コーナーでの失速で8位まで後退したエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)は、SS5の3番手タイムで5位まで挽回してきた。

 午後のループは雷雨になるとの予報どおりにSS6アルーラ・ステージの上空には黒い雲が覆い、通り雨によってところどころ路面はウェットコンディションとなっている。

 ロヴァンペラがここでもベストタイムで首位をキープ、2位のブリーンも1.4秒差の2番手タイムで続いており、二人の差は6.2秒とまだまだ僅差となっている。「プッシュする必要があるが、賢くなければならない。2回目の走行では、いつも荒れた場所があってトリッキーだからね。それでもこのままのプランで行くつもりだ」とロヴァンペラは語り、自身のペースへの自信をみせる。

 ロヴァンペラはSS7オテパーでも快調なペースを刻み、ブリーン1.7秒差をつけるベストタイムを奪ってリードを7.9秒へと広げたあと、SS8カネピではジャンプで進入するラインを間違えてしまい、グリップを失ってコントロール不能のような状態に陥るシーンをみせて、ベストタイムをブリーンに譲ることになったが、この日の最後のステージとなるSS9カンビヤでこの日6つめとなるベストタイムでブリーンとの差を8.5秒へと広げて1日を終えることになった。

 ロヴァンペラはキャリア初勝利にむけてすべてが計画どおりに進んでいることを実感しているようだ。「すべてが計画通りに進んでいる。素晴らしい1日だった。2回目のループはあまり良くなかったので、明日はもっと改善しなければならない。タイヤのグリップも走行で失われ、フィニッシュ付近でヒヤっとする瞬間があった。今日がこれで終わりで良かった」

 ブリーンはSS8ではベストタイムを獲得したものの、SS9ではタイヤのグリップが最後までもたなかったと嘆き、雨で路面が湿ったセクションが多かったにもかかわらず、30度近くまで気温が上昇した午後のループではソフトコンパウンドタイヤには課題が残ると警告した。「SS8でフィニッシュしたとき、ポール(・ネーグル)に、今日の中で最悪のステージだったと言ったんだ。どうやら、僕たちは常に最悪のステージをやったときにはいいタイムが出るようだ!でも、最後のステージはカッレのためのステージだった。僕らは最後の4、5kmでタイヤのグリップを失っていたからね」

 オジエから6.8秒差の4位で朝のループを終えたヌーヴィルは、「明日のロードポジションのためにオジエの前に出たい」という願いどおりに連続して3番手タイムを刻んでじわじわとオジエに肉薄、SS8で0.5秒差で抜き去るとともに最終的に6秒までリードを広げて3位で金曜日を終えている。それでも朝のパンクが響き、首位のロヴァンペラからは53.5秒遅れとなっている。

 オジエはヌーヴィルに抜かれたことをそれほど意に返さず、選手権を争うエヴァンスを15.5秒差でリードしていることに満足したように、「今日の結果にはとても満足している。自分の限界に挑戦し、ミスもしなかったからね」と語っている。エヴァンスはオジエよりいい走行ポジションでスタートしながら前に出られなかったことに苛立っているようだった。「望んでいた日ではなかったし、もちろんそうではない。朝のオーバーシュートとストールによるタイムロスもそうだが、全般的に、すべてがうまくいかず、このような速いコンディションではあっという間に差が開いてしまった」

 テーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)は朝のループでパンクとともにチームメイトのグリーンスミスが見舞われた水圧異常と同じ問題を抱えてペースダウン、午後のループでも症状に悩まされながらも6位まで順位を上げている。サファリ・ラリー・ケニアをスキップしたピエール-ルイ・ルーベ(ヒュンダイi20クーペWRC)はラリー・エストニアで不振なシーズンを立て直そうとしているが、なかなかペースを上げることができずに7位となっている。

 明日の土曜日はタルトゥ北東部のロシア国境にも近い新しいエリアのステージが舞台となる。オープニングステージのペイプシアーレは現地時間8時6分(日本時間14時6分)のスタートとなる。